モンサント社の訴訟作戦
モンサント社に脅される農民
7月始め、東京で講演したモンサント社と戦うカナダの農民パーシー・シュマイザー氏によると、北アメリカで、農民に対してモ社が起こした訴訟は550件にものぼるといいます。
モ社は、組み換え種子の特許権を最大限に活用する戦略を展開しています。それは、遺伝子組み換え種子を一度買った農家には、自家採種や種子保存を禁じ、毎年確実に種子を買わせる契約を結び、そうでない農家には突然特許権侵害の脅しの手紙を送りつけるというものです。
その手紙は、特許のある組み換え作物が、農家の畑に存在することが確認された(農家からいえば、汚染を受けたことになるのだが)ので、賠償金を払わなければ訴訟に持ち込む、という内容になっている。
このような脅しを受けている農家が、米国国内では推定400人ほどいるといいます。(CropChoice.com News)汚染を受けた被害者は農家のほうなのだから、裁判で戦えば勝てるのではないかと常識的に思うのですが、ほとんど法廷に持ち込まれることはないといいます。農民のほとんどは、モンサント社との裁判を簡単に諦め、示談金を払うしかないからです。
圧倒的に農民に不利な状況
巨大企業モンサント社に対抗して裁判闘争を始めた場合、まず弁護士費用が大きな負担になります。シュマイザー氏の場合、これまでに弁護士費用だけで2700万円を使っているといいます。
さらに米国国内の場合、モンサント社の特許使用契約書にある条項によって、モンサント社は本社があるミズーリ州の法廷に持ち込めます。このため、何千マイルも離れた地域の農民に、巨額の法的手数料が追加されることになるのです。
また、これまで法廷に持ち込まれた訴訟の結果も、農民を脅えさせ、モンサント社の思い通りに従わせるような判決が下されています。例えば、モンサント社にライセンス料を払わずに、ラウンドアップ・レディー大豆を栽培したとされた農民は、78万ドルの罰金刑に、モンサント社の訴訟に始まるさまざまな罪を加えられた農民は、170万ドルの罰金と禁固8ヶ月の刑に処せられました。
生物特許という新たな武器を手に入れ、組み換え技術で種子に特許をとる。これが賠償金という形で企業に大きな利益をもたらすのです。
専門スタッフと予算をつけ、磐石の態勢を組む大企業
モンサント社は、この分野を強化するため75人のスタッフを擁する、年間予算1000万ドルの新部門を設置したといいます。さらにモンサント社は訴訟作戦を広げ、最近では、メーン州のオークハースト乳業が、牛乳に遺伝子組み換えの牛成長ホルモン(BGH)を使っていないと表示していることを、訴訟対象に選びました。
モンサント社は、BGHを作っている世界で唯一の会社なのです。BGHは米国だけでしか使用許可されていません。申請したカナダでは、安全性に問題があるとして却下されました。BGHを注射された牛の健康影響のみならず、その乳を飲む人間(特に幼児)へ、アレルギーや乳がんのリスクが高まることが指摘されています。
オークハースト乳業の表示は、簡素に「私たち農家の誓い:人工成長ホルモンは使わない。」とあるだけですが、この表示は、ホルモン剤を投与された牛の牛乳よりも、投与されていない牛の牛乳の方が良いことをほのめかしているため、モンサント社の製品を傷つけるものであるというのです。
また、モンサント社はメーン州を共に訴えました。メーン州の品質表示認証では、BGHを使っていないことが保証される乳製品にのみ、認証が付けられるからです。
日本でも訴訟作戦を狙っている
これほどまでに、反消費者的企業はそうはないと思わされます。ブッシュ政権とモンサント社は同類で、いまは力でさかさまで、いかさまの論理を押し付け、それがまかり通っています。
しかし、いずれ北米の、良識や良心ある人々からの、ゆりもどしが必ずあるでしょう。人々の支持がない、正しくないことは、けっして長続きはしないものなのです。
日本では、モンサント社の後押しを受けたバイオ作物懇話会が、組み換え作物を畑で生産する農家を物色しています。バイオ懇の目的は、ことば通りの、新しい技術による日本農業の発展のためなどでは決してありません。
モンサント社の戦略は、日本で売れるはずも無い組み換え大豆種子を販売することではなく、汚染を作り出し、国産にこだわる消費者をあきらめさせること、そして汚染を受けた農家に対し、逆に特許侵害として賠償金を取り立てることを狙っているのかもしれないのです。
(2003/7/29)