ナノ微粒子の危険性
(http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_master.htmlからの要約)
ナノ・テクノロジー(ナノテク)は、眼では見ることができない非常に小さな物質と機械を扱う科学と工学である。単位ナノは10億分の1メートル(1000分の1マイクロ)の長さのことだ。人間の髪の毛の直径は200,000ナノ、最小の原子(水素)の間隔が0.1ナノである。
米国をはじめ、日本でもナノテク開発には技術革新の大きな期待がかかり、巨額の研究予算が付けられている。クリントン大統領が2000年に "国家ナノテクノロジー計画" を発表した時に、彼は、「議会の図書館の蔵書が全て収まるコンピュターが角砂糖1個のサイズ以下になり、センサーは非常に小さくなるので、動脈を通じて体内を巡り早期にがんを発見でき、鉄の10倍の強度を持ちながら重量はほんのわずかな新素材ができる」と述べた。
ナノ微粒子の最も重要な特徴の一つは、容積に対する表面積の比が巨大であるということである。一般に物体が小さければ小さいほど、その表面積は容積に比べて大きくなる。しかし、微粒子の相対的に大きな表面積という特徴は、少なくとも次の2つの理由から、危険なものとなる。
第一の危険は、ナノ微粒子の大きな表面積のために、人間や動物の体組織内で酸素との反応を促進してフリーラジカル(自由基)を作り出すということである。
フリーラジカルは奇数の電子をもった(不安定な)原子あるいは原子の集団であり、酸素がある分子に作用すると形成される。一旦、これら反応性の高いフリーラジカルが形成されるとドミノのように連鎖反応を起こす。その主なる危険性は、DNA あるいは細胞膜のような重要な細胞構成要素と反応してダメージを与えることにある。これにより細胞の機能は低下し、あるいは死ぬとライス大学のマーク・ジェンキンス博士は説明している。
第二の危険は、ナノ微粒子が空気中に浮遊している時に、その大きな表面積に金属や炭化水素(焼却炉、セメントキルン、化石燃料発電所、ディーゼルエンジンなどの燃焼源から排出される)が付着することである。粒子のサイズが小さければ小さいほど、粒子が随伴する金属や炭化水素の量はその容積に比して相対的に多くなる。今日大気中にある微粒子によりアメリカで毎年60,000人が死亡すると推定されている。
2003年4月11日のサイエンス誌は最初のナノ粒子実験について報告している。ギュンター・オバドルスターはマウスを直径約10ナノのナノチューブに暴露させたところ、ナノチューブはマウスの肺の最深部にある肺胞に突き刺さり、肉芽腫の形成の引き金となった。
また、20ナノのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を暴露させたラットは全て4時間以内に死んだとサイエンス誌は伝えている。オバドルスターはラットの大食細胞(マクロファージ=肺に入る異物を処理する)、が20ナノの粒子を処理できなかったと指摘した。超微粒子は肺の防衛機能を破壊するということである。
現在までの研究で、肺の中のナノ微粒子は肺疾患と心臓血管疾患を引き起こす。さらに、ナノ微粒子は金属と発がん性炭化水素を肺の奥深くまで随伴し、ぜん息やその他の深刻な呼吸器系疾患を悪化させる。さらに、ナノ微粒子は汚染物質が脳に侵入するのを防ぐバリアを破壊し、金属を随伴して直接脳に到達し、そこで蝋状アミロイド斑の形成を促進し、アルツハイマー病の兆候となることがわかった。
現在ナノテク産業とアメリカ政府は、超微粒子をトンの規模で製造する新たな産業設備を急速に展開している。すでに140余りの企業がナノ粒子を製造しており、その用途は、粉末、スプレー、コーティングなどで、日焼け止め軟膏、自動車部品、テニスのラケット、キズのつかない眼鏡ガラス、よごれない布、自動洗浄窓ガラスなど様々な製品が実現している 。日本の三菱化学は年産120トンのナノチューブ製造プラントの建設に着手しており、2007年までに生産規模を年産1500トンにまで拡大する計画があると伝えられている。
ナノ粒子の製造と使用はどの国にも規制はまったくない。さらに産業界もナノ粒子の製造、使用、廃棄における安全な取り扱いのための規準をなんら規定していない。
ナノ微粒子の危険性について明らかに合理的な疑いがあり、科学的不確実性がある。倫理的に未然防止措置がとられなければならない。
安田節子によるコメント
これまで身近なところでは、ディーゼル排気が一番大量の粒子状物質を含み、肺がんやアレルギー性鼻炎、気管支ぜん息を引き起こす原因になっています。吸入した実験動物の精子数の減少を引き起こし、心臓の心内膜に炎症を起こしもします。都市圏でのディーゼル規制は遅すぎたくらいです。
ところが、先端技術のナノテク工場が生み出す超微粒子にはまだ目がむけられていません。自然界には存在しないような微細な物質に対し、体の防御システムや免疫機能は働きません。
なお、ナノテクはその革新性に本質的危険性をはらみます。原材料を加工したり削ったりして部品や製品を作るこれまでの方法ではなく、原子が操作されて原子が自身で必要な形に組み立てを行い、あとには何も廃棄物を残さないでモノを作り出す、つまりコンピューター制御の下でナノボット(ナノ尺度のロボット)が原子を、望む形のものに、自分自身のコピーさえ、組み立てることができるようなプログラムを組み込むことができるようになると期待されています(http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_master.html)。
しかし、これは原子レベルでの自然の秩序を破壊することです。また、ないとは言えないプログラムミスはなにをもたらすのでしょうか。自己複製が止まらなかったら?
なお、サン・マイクロシステムの共同設立者で科学者でもあるビル・ジョイは、次のように述べています。「21世紀の技術−遺伝子組み換え技術、ナノテクノロジー、そしてロボティックス(GNR)−は全く新しい種類の事故や悪用を生み出す可能性がある。最も危険なことは、これらの事故や悪用を個人や小さなグループの手の届く範囲で行うができるということである。それらは大きな設備や希少な原材料を必要としない。知識だけがあればよい。実際、我々はGNR技術に関する知識が拡散することによる本質的な危険性−知識だけで大量破壊を可能とする危険性−についての明白な警告を長年受けている。しかし、これらの警告は広く公開されておらず、公の場での議論は適切に行われていない。危険性を公開することは利益につながらないからである」。
(2003/11/15)