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GMイネ裁判支援ネット主催 学習会のお知らせ


はじめに

新潟の北陸研究センターが昨年につづき、今年も遺伝子組み換えイネの野外栽培実験を予定しています。このイネは遺伝子操作でいもち病などイネの病気に耐性を持たせたというものですが、常時抗菌たんぱく質を分泌することから耐性菌の出現が強く懸念されています。

常在菌として身のまわりに存在する緑膿菌。あたりまえのこの菌がヒトの抗菌たんぱく質に抵抗力をもつような変異をしたら、なにが起こるか、この実験を強く危惧し、危険性を指摘する微生物学者木暮一啓氏からお話を伺います。

GMイネが耐性緑膿菌を生み出したらヒトに何が起こるか?

日時:3月27日(月)午後3:00から5:00

場所:飯田橋セントラルプラザ 16階 A会議室

講師:木暮一啓さん(東京大学海洋研究所教授)

資料代:1000円

木暮一啓さんの最新のエッセイ(「最高裁の決定を知って」2006年1月21日)より

私は今緑膿菌の研究を行っているが、この緑膿菌はよく知られているように、いわゆる日和見感染菌として、院内感染でしばしば深刻な問題を引き起こしている。要するにこの菌は健康な人に対しては特に悪さをしないが、手術後や、やけどの患者のように、弱っている人に対しては重篤な症状を引き起こし、死に至らせる場合もある。始末が悪いことにこの菌は比較的容易に抗生物質耐性を得て、抗生物質を効かなくさせる。こうなると全くお手上げの状態になる。さて、この菌は陸にも川にも海にもいる。さらに、この菌は人のみならず、昆虫にも、そして植物にも病原性を発揮する。例えばレタス、シロイヌナズナなどが知られる。報告書にあるように宿主域が限定されているなんていうことはない。そして今回の試験で私が最も気にするのは、緑膿菌はイネの根にもいる、ということである。ディフェンシンを組み込んだイネからそれに耐性の緑膿菌が出現し、蔓延したらどうなるか。

ディフェンシンというのは我々ヒトもこれを生産し、防御機能として使っている。最悪のシナリオは、ディフェンシンが働いていたが故に"日和見感染菌"だった緑膿菌がその病原性をはるかに高めて健康な人をも病気にさせることである。はじめに試験場と周辺農家の人がやられ、ついで急速に周辺に広がるだろう。そうなるともうこの緑膿菌を地球上から消滅させる手段はない。繰返すが、緑膿菌は地球上のあらゆる所にいて、生息場所を選ばない。人間は自分を防御するのに抗生物質を産生はしないが、ディフェンシンは実際に我々自身の防御機構として用いられている。病原菌の抗生物質耐性とディフェンシン耐性はその潜在的脅威という点では次元が全く違う話である。正直これを今書きながらもそれこそ背筋が凍る思いを抑えきれない。

さて、こう書くといたずらに脅威論を撒き散らすな、と言われるだろう。しかしこれは荒唐無稽の作り話というわけではない。実際、Perron ら(2005)は、大腸菌およびPseudomonas fluorescenceという菌をペキシガナンという物質に曝しておくと、600-700世代後には高率(試験をした24株中で22株)でこの物質に対する抵抗性を得たことを実験的に示している。この後者の菌は実は緑膿菌の近縁種である。また、ペキシガナンはディフェンシンと同様の抗菌性のペプチドである。これらの話を総合すれば、実験室でディフェンシンの存在下で緑膿菌を長期に(とは言ってもせいぜい1月程度)培養すれば、耐性菌が出現する可能性は極めて高い。

今回の隔離圃場の細かい構造や作付けの状況、GMイネが持つディフェンシンの濃度、その土壌中の細菌相などを私は知らないが、ディフェンシン耐性の緑膿菌は既にそこで出現しているかもしれない。あるいはそれがまだでも、数年以内に起こる可能性は否定できない。果たして今回この実験を計画された方々はそこまで想定しているのだろうか。想定していなければずさんな計画であり、想定していたならば、犯罪的である。

常々感じていることだが、概して日本人は自然を大規模に改変することにあまりに無頓着である。海岸線や河川のヘリを全部埋め立ててコンクリートにしても、山を削り、木を伐採して国土を大きく変えても、便利さのために仕方ないと考える。私自身もそうして作られた高速道路を走っている一人なので、それを一概に否定するつもりはないし、否定する権利もない。ただ、怖いのはそうした様々な改変についての問題点を殆ど考えなくなってしまう状況である。さらに、問題が出なければ進めていいだろうという判断の下し方である。それが今回の組換え体についても当てはまる。私はこうした問題をいちいち取り上げてその潜在的脅威を声高に叫ぶタイプの研究者ではないつもりである。

今回の事件に関しては、金川氏に事情を知らされて初めて状況を知り、一科学者としての意見を率直に述べることにしたまでである。科学者の一人としては、やはり問題に気がついた以上、最悪のシナリオを含めて率直に語るのが社会と人類に対する責務と考える。最後に私の個人的な感情をはっきり言うならば、上に書いたような理由で、私の小学生の娘は絶対に実験区域周辺に連れて行きたくはない、そして今からでもいいから、実験区域を徹底的に滅菌しつくしたい。実験の継続は論外である。

GMイネ差し止め裁判公式サイト

(2006/3/4)

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