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「遺伝子組み換え作物の問題点─グローバリズムと食の安全─」(2006年7月14日 横浜開港記念館にて行った講演録)


遺伝子組換え(GM)食品が推進される背景

皆さんおはようございます。安田です。

遺伝子組み換え食品の問題は、輸入が始まってからもうすでに10年経ちますので、皆さんもこれが安全であるかどうか、あるいは表示制度の問題など、不備の点を皆さんいろいろ勉強されていることと思います。

今日のタイトルには、「グローバリズムと食の安全」と副題がついていますが、私がいまお話すべきことは、なぜ、世界中の消費者が「食べたくない」「安全性の確認がされてない」と言っているのに、遺伝子組み換え食品が、どんどん輸入され、国内でも栽培していこうという動きがあるのかです。私たちの思いとは違う、大きな力が働いているのはなぜなのか、その辺のところからお話できたらと思います。

バイオ企業が進める種会社の買収と食料支配

遺伝子組み換え食品の最大の問題は、バイオ企業がみな種(タネ)の会社だということです。モンサント、シンジェンタ、バイエル、デュポン等、皆さん聞いたことがあるかと思いますが、これらの企業はもともとは化学工業メーカーで、化学肥料や農薬を作って世界中に販売してきた多国籍企業です。そういう企業が、バイオベンチャーを次々と買収して、バイオ企業に衣替えをしました。

そして次ぎは種会社をターゲットとして買収が活発に展開されました。いまや彼らが種会社をほとんど牛耳っています。

たとえば昨年1月アメリカのモンサントは、セミニスという世界一の野菜の種会社を買収しました。既にカーギルという巨大穀物メジャーの種子部門を巨額のお金で買収していますし、インドのマヒコ社等、世界の大手の種苗企業を傘下に治め、先ほどのセミニスを買収した結果、いまではモンサントは世界一の種会社なのです。

日本のマスコミはほとんど取り上げませんが、種子分野を牛耳るということは食料支配へつながる、と私は非常に危機感を持っています。いま日本で売られている家庭菜園用の種の原産地(国)表示を見ても大体アメリカです。私たちが知らないうちに、ほんのわずかの多国籍企業が種を支配してしまっているのです。

98年の日本農業新聞に「農産物バイオ強化」という見出しで、大手化学メーカーが種苗企業を買収してしまっているということが、すでに出ています。

モンサントが世界一の種苗会社になったのは去年の1月ですが、このことは非常に重要です。なぜ彼らは、いままではマイナーな産業だった種子分野にこれほど執着し、支配力を強めているのか。それは、遺伝子工学と関係があります。

遺伝子工学と生物特許

生物の細胞の中にある遺伝子の特徴を見つけて特許を取得し、知的所有権を主張できるようになったからです。初め、アメリカのチャクラバーティという研究者が、遺伝子組み換えで、原油を分解する微生物を作り出しました。これは、たとえば原油流出事故のときにこの菌をばら撒くと原油を消化してしまうので、汚染を解決するすばらしい生物だと、この微生物に特許を申請しました。当然、生き物に特許なんてことは今まではなかったので、それは却下されました。でも、チャクラバーティは最高裁まで争ってついに1票差で特許を認めさせ、生物特許の道を開いたのです。

次には遺伝子を働かないようにしたノックアウトマウスという医療研究用のネズミに特許が認められました。そして、いまや組み換えの種子も特許が認められるようになっています。そうすると、特許の付いた種を農民が種取り(自家採種)をして、それを蒔いてまた新しい作物を作るということは禁止されます。特許侵害になるからです。だから、種は毎年種会社から買うしかない。自家採種して蒔けば、F1(雑種1代)とは違って親と同じ性質のものが生まれます。ですから遺伝子組み換え作物の種を作っている企業では、農家に自家採種をさせないことが最大のテーマです。

遺伝子汚染の企業が逆に農家を提訴、農家が賠償金?

カナダのナタネ農家パーシー・シュマイザーさんの話を聞かれた方も多いと思います。カナダでは組み換えのナタネも許可されていますが、自分のナタネ畑にその花粉が入って交雑し、本人が知らない間に組み換えナタネが生えてしまった。これをモンサントが「特許侵害だ、賠償金を払え」と言ってきた。シュマイザーさんは、「これはおかしい。自分の方が被害者じゃないか。私が毎年自家採種して良いナタネを残してきた。それが、知らない間に組み換えナタネで汚染されてしまったのだから、汚染を受けた被害者は私だ。モンサントになんで賠償金を払わなければならないのか。こんな逆さまな論理はおかしい。」と、シュマイザーさんはその賠償請求の裁判をたった一人で受けて立ち、巨大な多国籍企業モンサントに立ち向かいました。

しかし、彼は負けました。風や昆虫が運んだのか、畑の脇を通るトラックからのこぼれ種なのか、そして彼が望んだわけでもないのに、彼の畑に組み換えナタネが生えていたことが犯罪とされたのです。判決では「なぜその特許の遺伝子がシュマイザーの畑にあるのか経緯は問わない。シュマイザーの畑に遺伝子組み換えの菜種が生えていたという事実が特許侵害に当たる」というものです。そういうさかさまの世界になっています。これは本当におかしいですよね。

組換えナタネの自生研究調査にストップが!

今日は皆さんのナタネの自生調査報告があると思いますが、その話も絡んできます。実は、最初は、つくばにある環境省の環境研究所の研究官が、日本が大量に輸入している遺伝子組み換えナタネのこぼれ種が、港や国道沿いに生えているという実態調査の結果を発表したのがきっかけです。それから全国で市民や生協の方々が多く参加して、自生検査運動が取り組まれました。

その研究官が、「自生している組み換えナタネが日本の野菜と交雑していく可能性がある。十字花植物だから、大根、小松菜、白菜等の近縁種にこの花粉が入れば、知らない間に組み換えナタネの遺伝子が、私たちの食べる野菜にも入るのではないか。その交雑の可能性を調べたい」ということで、次の研究課題として環境省に申請しました。

ところが、モンサントから「ラウンドアップをかけても枯れないナタネはわが社の特許がかかったものだ。これを使っての実験をすることはまかりならぬ」と環境省に言ってきたのです。それで、環境省はその研究課題は認めませんでした。おかしいでしょう? 日本を汚染しておいて、それが自分のものだと権利を主張するなら、全部引っこ抜いて持って帰るべきです、モンサントは。でも、他人の国を汚染していることには知らん顔をしておいて、私たちの当然の権利である「日本の野菜に入るのではないか、交雑実験をしたい」という当然の要求を、してはいけないと。

ですからこのように、遠いカナダのシュマイザーさんたち農民だけの問題ではなく、すでに世界中にこの生物特許を盾にして、そういう権利を主張してくる動きが強まり、逆さまの論理がまかり通っているのだということを知っておいていただきたいと思います。

特許侵害の賠償金取立てビジネス

彼らが種に特許をかけると、農家が買う種には通常の種の値段の25%増しの特許料が上乗せされます。高い種を売り、除草剤耐性のナタネ、あるいは大豆の場合、ラウンドアップを大量に畑に散布しますから、ラウンドアップもたくさん売れる。そして交雑汚染が起きれば賠償請求をし、賠償金を取る。昨年私が調べたところ、モンサントは、この賠償取立て部門のスタッフを72人も増員して、カナダやアメリカの農家から賠償金を取ることをビジネスとして展開しています。

シュマイザーさんは裁判で戦いましたが、普通の農家は、巨大な企業を相手にたった一人の農民が裁判をしても負けるに決まっているので、自分の農場も年金も全部取られるリスクを犯すよりましと、モンサントの言うがままに賠償金を払う。それも日本円で一千万円くらいになるすごい額を、自分の農場経営を続けるためには仕方ないと、泣く泣く払っているのです。

農民の種取りを無効にするターミネーター技術を開発

彼らは、単にアメリカやカナダ、アルゼンチン等で作っているだけではなく、この種を世界中で売っていこうとしています。モンサントは、インドのマヒコ社という綿会社を買収してインドや、また、中国でも遺伝子組み換えの綿を作らせています。そこでは、昔から農民は種取りをしています。農民にとって種取りは、何千年も続いた当たり前の行為で、いまになってそれが犯罪だと言われても、特許侵害など理解することが出来ません。小規模農家がたくさんあるので、監視することも不可能です。

ですから、彼らが特許侵害を防ぐための技術として開発したのが、農家が自家採取した種は自殺してしまうようにした、ターミネーター(terminator-終結)テクノロジーです。農家が自家採種した第二世代の種は、熟して発芽細胞が動き出す時にスイッチがオンになり、入れ込んでおいた遺伝子が働いて毒が出来て死んでしまいます。いくら肥料や水をやっても、その種は土の中で腐ってお終いです。そういう技術を開発しています。

私は、遺伝子組み換え作物の輸入が始まった96年から、流通させるなら少なくとも表示をすべきと運動してきました。でも、厚生労働省、農水省は「国が安全を確認したものに表示はいらない」の一点張りで、全く表示の動きはありませんでした。一種絶望感があった時に、組み換えに反対する草の根の人たちがアメリカに集まって、モンサント本社のあるセントルイスの大学の夏休みのキャンパスを使って、初めて国際的な草の根集会をやりました。その集会でカナダの科学者たちの開いた、ターミネイターテクノロジーのワークショップで話を聞いて、衝撃を受けました。彼らはここまでやろうとしているのかと。

組み換え作物は、今問題になっている人口爆発、食糧不足、環境悪化の中、食料飢餓を救う技術だと宣伝されています。バイオが世界を救う、環境汚染を救う、食料飢餓を救うという言い方をされて推し進められ、大学や研究機関に莫大な投資がされています。しかし、表の宣伝に惑わされないで裏に隠された野望を見抜く目を持たなければなりません。

企業の狙いは種の支配と利益を最大にすること

彼ら開発企業の本当の狙いは、種を支配し自分たちの利益を最大にすることだということが、ターミネイターテクノロジーのことを聞いたときにはっきりとわかりました。あとで、WTOの話をしますが、それとも深い関係があるのです。このターミネーター技術については、世界中で反対運動が起きました。採取した種が自殺するって、大変なことです。この技術はあらゆる種子に適用することが出来るのですから。

今日は、これよりもっと進んだトレーター(traitor-裏切り者)テクノロジーという技術の話は、時間がありませんのでカットしますが、とにかく「農民は毎年種を買うしかない」という世界が、いま出来つつあります。

そして、今年、衝撃的ですが、EUもカナダもアメリカに続いて、ターミネーター技術を認めました。バイオの推進側は、「組み換えの作物を植えれば、普通の作物に遺伝子汚染が起こり、広がっていくことが懸念されている。でもこの技術を施せば、二世代目の種は死んでしまうのだから、汚染は防げる。だからこの技術を認めろ」という論理を戦略的に展開するようになったのです。汚染を作り出す張本人たちが、よくまあ都合のいいことを言うと思いますが。

種が自殺して子孫を作れなくする、そういう技術は倫理に反することで絶対に認めてはならないと私は思います。でも、これを認めていく流れになっているということを、知っていただきたい。ごく少数の多国籍企業が、種子支配の道具として組み換え技術を使っているということなのです。

食料輸入は6割、主要穀物はアメリカが独占、危うい食糧安全保障と国家の安全保障

日本は、ご存知のように食料自給率が先進国の中では特に低いです。自給率4割。6割は輸入している。その6割の食料の中の主要穀物、トウモロコシ、ダイズ、ナタネ、コムギはみんなアメリカ大陸から来ています。今日は政治的な話はしませんが、日本が米以外の穀物をアメリカ一国に集中して輸入しているというのは、食糧安全保障、国家の安全保障の面からもまことに危うい、愚かしいことで、本当に危険です。日本が何でもアメリカの言うことを聞くアメリカ追従の外交で、もはや独立国家としての矜持を持ち得ない理由は、食料がこういう状況だということが大きいです。

日本は、アメリカの遺伝子組み換え作物の最大の輸入国です。7作物75品種。アメリカで認可し、生産したものはすぐ日本が認めないと、輸入禁止は貿易障壁だといわれるので、次々と認めているのです。いまやアメリカで禁止になった問題のある組み換え、アレルギーを起すとかの問題があって禁止になったものだって、輸入した家畜の飼料などから見つかっています。日本の農水省は、家畜の飼料に未承認のものが1%くらい入いることは容認しています。「未承認を認める」というのは論理矛盾で、あってはならないことです。日本国内の民間企業なら、そういう表示違反をすれば袋叩きにあって会社の存亡の危機に曝されるのに、国家自らが未承認のものの流通を認めるという、でたらめなことをやっているわけです。

増える遺伝子組換え作物の作付け面積の背景

いまや世界の遺伝子組み換え作物の作付け面積は、10000haと非常に増えています。推進側は、組み換え作物の面積が増えているのは、世界中で受け入れられ生産されるようになっているからであるかのような論調でこの数字を発表します。しかし、よく見ればわかるように、最も生産しているのはアメリカで60%。そしてアルゼンチンが20%、カナダがぐんと落ちて6%、ブラジルが6%、中国は5%です。

中国は、始めはモンサントの組み換えの綿を生産していましたが、いまは中国独自に開発した組み換え綿も生産しています。Tシャツなど綿の衣料品で世界中に進出し、その原料を組み換えの綿にするようになりました。食品についても独自の研究開発はしていて、柳の木や米、トマトなどの4、5品種をほぼ応用化できるところまでいっていますが、米も含めていまのところ応用化はしないとの方針です。それは、組み換え作物で応用化を認めれば、混入の問題は避けられず、中国の農産物は海外で拒否される可能性があるからです。食品については慎重だが、食用ではない綿ではやる。こういうスタンスです。

ブラジルは、世界第二位のダイズ輸出国です。GMダイズに対するヨーロッパの消費者の拒否感が強いので、欧州市場確保のために組み換えはしない、始めはそういう戦略でした。しかし、モンサントの暗躍があったと思われますが、アルゼンチンから組み換えダイズがブラジルに密輸され、農民は、ただ同然の安く手に入る種をどんどん作付けしたのです。そして、ブラジル国内に汚染が広がって、もはや組み換えのダイズ禁止状況は崩れてしまい、認めていく流れになってしまったのです。目的のためには、なんでもありの世界です。

アルゼンチンは、ご存知のように、経済破綻をした国です。パンパスという肥沃な土壌を持ち、一昔前までは世界に穀物を輸出する南米一の豊かな国だったのが、経済破綻しました。株価が紙くずみたいに安くなり、アルゼンチンの企業がアメリカ資本に次々と買収されました。モンサントはアルゼンチンの種苗企業を全部買ってしまい、アルゼンチンで売られるダイズの種はほとんどモンサントの組み換えダイズとなりました。経済破綻をした国は、IMFや世界銀行から借りたお金を返すために構造調整といって経済政策を握られ、換金作物を作らされますが、アルゼンチンの場合、輸出向けの組み換えダイズを作らされたのです。アルゼンチンの人たちが食べる食料の生産農地はどんどんと奪われ、ダイズ畑に変わりました。アルゼンチンではすでに45万人もの人たちが餓死したといわれています。自分たちが食べる作物を作れないで、ヨーロッパの家畜の飼料としての組み換えダイズを大面積で生産しているからで、非常に悲惨なことです。

WTOやIMF、世銀のあり方が問われるべきですが、そういう状況で、アルゼンチンはアメリカに次いで、世界で二番目の遺伝子組み換え作物の生産国になっていることも知っていただきたいと思います。

健康への影響 安全性評価基準をつくった競争力評議会

次に、健康への影響ですが、遺伝子組み換えの安全性への評価基準を最初につくったのはアメリカです。アメリカでは、1994年に世界で一番はじめに組み換え作物をトマトで応用化。これは売れないで失敗でしたが、96年にはダイズ、トウモロコシ等を世界中に輸出しました。これまで人類が食べたことのない組み換え作物をどうして輸出ができたのでしょうか。パパ・ブッシュ政権の時、その安全性評価を審議したのは、普通だったら食品医薬品局、環境保護庁、農務省のはずなのに、このときはどこが審議したかというと、大統領競争力評議会というアメリカの経済戦略を練るところだったのです。

後でお話ししますが、今度日本語版を出そうとしているドキュメンタリー「食の未来」の中に非常に面白いところがあります。この大統領競争力評議会が、組み換え作物の安全性評価基準をつくらせたのがマイケル・テイラーという、元モンサントの上級顧問だった人物であると紹介しています。この人物が「実質的同等性」という評価基準を持ちこんだのです。「組み換え作物の、形や主要成分、性質が、元の作物とほとんど変わらないなら、安全性は元の作物と実質的に同等と看做せる。よって、普通の作物と同じなのだから、動物実験はしなくていい」ということで、今私たちが食べている組み換えは、自主的な動物の急性毒性実験しかしていません。実質的に同等だと看做せれば、慢性毒性、次世代への影響を調べる動物実験はしなくてよいのです。

動物実験では悪影響が明らかとなった

昨今、何人かの良心的研究者の人たちが行った組み換え作物そのものを食べさせ続けた動物実験ではことごとく悪影響が出ています。アメリカで恣意的につくられた安全性評価を、OECDが採用しOECDの基準だからと日本の厚労省もそれを採用。世界中でこれを採用していくという流れになっています。「実質的同等」というペテンの論理で、組み換えは認められていっているのです。

安全規制する役所と産業界は回転ドア

アメリカでは、環境保護庁とか、農務省とか食品医薬品局とか安全規制を担当する役所がありますが、回転ドアと言われています。回転ドアって、ぐるぐる回りますね、アメリカの前のパパ・ブッシュ政権の時もそうですし、今のブッシュ政権も、産業界とべったり。規制当局のトップに産業界の人間が座り、それがまた産業界にもどり、また規制当局にもどるということを繰り返すのです。イラク戦争を見ればわかりますが、業界が戦争を必要とすれば戦争をするし、遺伝子組み換えが必要になれば遺伝子組み換えを緩い基準でどんどん応用化していくという状況があります。

BSEの問題でもそうです。ジョハンズというアメリカの農務長官は畜産業界のボスです。農務省は本来規制当局で、しっかり安全性を追求しなければいけないのに、彼らは産業界のために、安全性は二の次のめちゃくちゃな論理で危ないアメリカの牛肉を米国民に食べさせ、日本など輸入国に対しては買えと強行に押し込んでいます。

それから、日本が表示問題で揺れていたときのアメリカの農務長官はアン・ベネマン。これはモンサントの子会社カルジーンの重役だった人です。ミッキー・カンター商務長官はモンサントの理事です。リンダ・フィッシャーはモンサントの副社長で、環境保護庁次官をやりました。それから、ラムズフェルドという国防長官は、モンサントの子会社のサールという会社の社長です。その時々のテーマに利害関係のある産業界のトップがアメリカの規制当局のトップになって、ぐるぐる回っているわけです。

日本では、一般に政府機関、厚生省、環境省、農水省等は、国民の安全を守るために規制をしていると思うわけですが、今日の食品安全委員会に見てのとおり、産業界やアメリカの政治的圧力に屈していっている気がします。

農業の大企業支配をすすめるアメリカ

米国が遺伝子組み換えを推進する理由のひとつは、補助金にあります。アメリカから日本が家畜のえさとして大量に買っている殺虫成分を作るGMトウモロコシは、アメリカの農家の1ブッシェルの生産費が3ドル20セントで、販売価格は2ドル20セント(アメリカ農務省の公式計算)です。1ブッシェル作るたびに1ドル損をするのになぜ農家が大量に作るかというと、政府が出すたくさんの補助金があるからです。

補助金を付けて生産費よりも安い価格で世界中に売っている。途上国など補助金を付けていない国々の農業はこれに太刀打ちできない。だからいま、WTOの会議で補助金をなくすということが課題となって交渉がされていますが、アメリカはそれを頑として拒否しています。

ヨーロッパでは、補助金は農民に払います。環境保護的な農業をしている人、家畜の頭数を減らしたり、有機農業で環境保全をしている人に直接お金を払う。けれど、アメリカの場合は農産物に補助金を出す。つまり、大規模な企業農業の人たちが儲かるようになっている。アメリカでは、家族農業は絶滅危惧種といわれています。もうほとんどいない。この60年で500万戸が消えました。すごい勢いで家族農家が消えて、かわりに巨大な機械によるプランテーション農業に変わっています。移民の人たちなどが農場労働者として安く雇われ、経営者はコンピューターで相場を監視するのが仕事です。この補助金の存在が、生産費を気にせず、市場価格を気にせず、大量に生産する動機となり、組み換えのトウモロコシや大豆を大量に扱う穀物メジャーやモンサントのような企業が儲かる理由なのです。

こうして、世界中に安く輸出し、輸入国の農業をつぶして行くという構図がある。これはアンフェアでしょう? こうした大企業支配の農業を背景に、遺伝子組み換えが進んでいるのだということもご理解いただきたいと思います。

農家への影響・家畜への影響 

次は農家への影響です。いろいろありますが、最近わかってきたことは、家畜の健康への影響。日本でも家畜が大量に遺伝子組み換え作物を食べています。アメリカのアイオワ州で養豚家が、豚に殺虫トウモロコシを与えたら、通常の8割減の受胎率、2割しか子供を産まなくなった。これは養豚家にとっては大変なことですよね。そのニュースが流れたときに、アメリカ全土の養豚家から、「うちでも、殺虫トウモロコシを与えたら子供を産まなくなった」という情報がたくさん集まり、結局この殺虫トウモロコシの品種は生産禁止になりました。

たくさん余った殺虫トウモロコシをどう処理しようか、というのでまずエタノール会社に売ろうとしました。エタノールはトウモロコシから作りますが、エタノールをとった後のトウモロコシからはグルテンがとれ、グルテンは食品に回る。この問題のある殺虫トウモロコシが食物連鎖の中に入ってしまう危険がある。その責任を問われるのはごめんだとエタノール会社は拒否しました。

それで問題のトウモロコシは、最後は飼料会社が引き取って、いずこともなく貨車で運び去った、と記事は終わっています。「飼料会社が引き取った。で、その行き先は?」と私は思います。日本に来ているのではないかと。わからないですが。

次はドイツです。スイスのチバガイギーを前身とする、シンジェンタという企業が作った殺虫トウモロコシを牛に与えて、牛は健康に育っていると、シンジェンタの広告塔をやっていた牛飼い農家がいたのですが、調子に乗って、殺虫トウモロコシの割合を増やして、最後は全部殺虫トウモロコシにしてしまったのです。そうしたら、牛が泡を吹いて50数頭全部変死してしまったので、彼は大変な衝撃を受けました。「私の飼い方で唯一違ったのは、与える餌の殺虫トウモロコシを増やしたことだけだ。これは非常に恐ろしいものだとわかった」と。

組換え作物そのものを食べさせる動物実験はされていない

組み換えの食べ物というものは、動物実験をきちんとしていません。今まで私たちがたくさん食べている組み換えのダイズは、急性毒性実験はしていますが、その実験というのは大腸菌に除草剤分解酵素を作る遺伝子を入れ、大腸菌の中に出来たものを取り出してネズミの餌に混ぜて食べさせるというものです。私たちが食べるのは組み換えのダイズそのものです。これでは、私たちが食べているものの急性毒性の実験をしたことにはなりません。それにかけても枯れないからと、使われたラウンドアップがたくさん残留している大豆にはラウンドアップの影響もあるし、遺伝子操作によってダイズの中にいろいろな変化が起こっているはずですが、そこにどんな物質ができるのかもわからないのです。ですから、これは、急性毒性の実験をしているといっても、私たちが食べているものを調べていることにはならないのです。

組み換え作物そのものを食べさせた実験では、いずれも有害であるということが明らかになっています。1998年にイギリスのローウエット研究所のアーパッド・プシュタイという研究者が、組み換えジャガイモそのものをネズミに食べさせる、世界で初めての実験をしました。人間にもネズミにも無害だということがよく知られているマツユキソウの殺虫毒素を作る遺伝子を入れて作った組み換えジャガイモをネズミに食べさせました。この殺虫毒素をエサに混ぜたネズミは、予測どおりなんともありませんでした。

ところが、遺伝子組み換えジャガイモを食べさせたネズミは、脳、すい臓、肝臓などの重量が小さく腸壁が厚くなったり、血液成分も変わって、次々と病気になって死んでしまった。プツタイ教授は驚愕しました。彼は、植物が持っている殺虫毒素、レクチンの研究では世界的権威でした。マツユキソウの殺虫毒素は哺乳類には無害だということが、これまでのデータから確認されている。それなのになんでネズミにこんなことが起こるのか。遺伝子操作をした結果、組み換え作物には予想外の変化が起こるということを知ったのです。

遺伝子は部品ではない、総合ネットワーク、組換えが生命ネットワークを乱す

ここで知っていただきたいのは、一昔前までの研究者たちは、遺伝子というのは単なる部品だと考えていたということです。特定の働きのある遺伝子を切り取って入れれば、変化はその新しい性質が付加されるだけだと。ところが、最新の分子生物学では、遺伝子というのは総合ネットワークだということがわかってきました。

通常、遺伝子というのは働いているのは少なく、ほとんどの遺伝子は働かないで眠っています。でも、必要なときにその遺伝子にスイッチが入って、働く。つまり生体の複雑な生命ネットワークのなかで巧妙にコントロールされているのです。

ところが、遺伝子組み換え操作をすると、その生物には全く不必要な、関係の無い遺伝子群がカセットとしてボンと押し込まれている。たとえば常時その産物を作るように、プロモーター遺伝子といって、遺伝子にスイッチをいれて働かす遺伝子が入っています。不必要な物質が細胞のなかにできることは負荷を与えます。また眠っていた他の遺伝子にも、プロモーターが作用したりして、制御が乱れるのです。その結果、思わぬ物質が出来て、それが、食べた人間や家畜に有害である可能性もある。プシュタイ教授は実験の結果について、遺伝子組み換えはもっとたくさんの実験をして安全を確認するまでは人々に食べさせてはいけないと、テレビで話したのです。

すると24時間後、彼は研究所を首になってしまった。ローウエット研究所にはモンサントからも政府からも研究費が出ていましたから。彼は、世界的な研究者だったが、もうすっかり耄碌し、とんでもない実験をして馬鹿な発表をしたと誹謗中傷され、葬り去られたのです。今は、多くの科学者たちが彼を支持し、名誉回復されていますが、そういうことがありました。

批判するなら、まず追試をすべきです。実験内容が問題だというなら、同じ実験をして、違う結果が出た場合に、彼の実験が不備だと証明するのが科学界のルールです。にもかかわらず、推進側はなぜか追試をしないで、実験をした研究者とその結果を誹謗中傷して葬り去ろうとするだけなのです。

ロシア科学アカデミー イリーナ・エルマコヴァの実験

さて、今度イリーナ・エルマコヴァというロシアの科学アカデミーの研究者が、日本に来ました。彼女は、妊娠する前の、交尾前からネズミに組み換えの、私たちが食べているのと同じダイズを食べさせる実験をした。そして妊娠中、出産、授乳中も与え続けた。その結果、普通、胎児の自然死は6%から9%くらいなのに、組み換え大豆を食べさせたネズミの場合、56%も死んでしまいました。また、オスはものすごく攻撃的になることもわかりました。健康な臓器はピンク色をしているのですが、彼女が見せてくれた写真では、青黒く色が変わってしまっていました。

彼女は日本全国縦断の講演会をしました。推進側の人たちは神経をとがらせたのでしょう。つくばの講演会に出た方からメールをもらいました。参加者が「彼女の実験は不備だ」というようなことを言って騒いだそうです。

エルマコヴァさんがこの実験をした理由は、遺伝子組み換えの環境問題のグループから意見を求められたからで、調べ始めたら、本来応用化する前にやるべき実験を、誰もやっていない。あるのは、プシュタイの実験くらい。実験もしないで人々に食べさせるのはおかしいと思い、彼女は自ら動物実験を始めたのです。この実験を不備だというのであれば、それに対する追試を自分たちもやるべきです。彼女もプシュタイ教授も、「このような実験を、時間とお金を掛けてたくさんやったあとでなければ人々に食べさせてはいけない」と言っています。

動物実験もろくにしないで、私たちに食べさせているということは、私たちをモルモットにして実験をしているということなのです。ネズミでは、凶暴になる、生まれた子供たちの死亡率が非常に高く、死ななかったものも成長に著しい遅れがでるなど、いろいろな問題が起こっている。だから、この実験結果に推進側の人たちは大変な危機感があるわけで、彼女の実験を葬り去ろうとして、その講演会場に押しかけたのです。大阪会場ではいきり立って彼女を面罵した参加者に対してエルマコヴァさんは、「このようにいきり立ってる方たちは、おそらく組み換えダイズを召し上がったんじゃないでしょうか」と言って、さらりとかわしたそうです。

私たちの食べているのと同じものを動物に与えて、実験をすべきです。しないのなら、安全確認したなんて言ってほしくないですね。

植物、食べものからとった遺伝子は安全か?

推進側は、「微生物から採った遺伝子を入れた組み換えは、消費者が気持ち悪がり受け入れない。それなら植物や食べ物から採った遺伝子なら受け入れるだろう」と考えるのですね。組み換えの稲も、微生物からのものが当然入っているのですが、それは言わないで、同じ稲から採った遺伝子とか、カラシナとか、ひまわりから採った遺伝子を使っていると安全性をアピールしています。

インゲンはある種の殺虫蛋白を出すのでゾウムシがつかないのですが、昨年の10月に発表された実験では、この物質を作る遺伝子をインゲンから取り出してえんどう豆に入れた。インゲンもエンドウ豆も人は食べていますね。だから、インゲン豆から取った遺伝子を入れた組み換えのエンドウは安全と消費者は思うだろうと開発者は考えたのでしょう。ところが、この組み換えのエンドウを食べた人がアレルギーを起すことがわかったのです。それは、インゲンの遺伝子がエンドウ豆の中ではインゲンと同じようにその物質を作るのではなくて、エンドウ豆の遺伝子の配列の中で、微妙に分子構造が違う物質を作ってしまった。それが、人にアレルギーを引き起こしたのです。

このように、組み換えというのは、部品のように切りとって入れ込めば、その遺伝子がつくる物質が付け加えられるだけという単純なものではないのです。GMエンドウのようなことも起こるのです。輸入が始まって、私たちが食べ始めて10年経ちますが、この間のいくつかの実験から安全性の問題が明らかになってきています。

推進派と反対派のせめぎあい

実は、モンサントも内部で秘密にネズミに食べさせ続けるという実験をやっていたのです。プシュタイさんがやった実験と同じように、血液の成分が変わってネズミに障害がでていた。この秘密の実験報告書のことをイギリスの週刊誌がすっぱ抜き、実験データの開示を欧州安全局が求めました。しかし、モンサントは企業秘密だからと拒みました。それで、ドイツで市民グループが訴訟を起しました。アメリカのモンサントのダイズを家畜の飼料として輸入しているのですから、知る権利があります。ドイツの最高裁は開示せよという判決を下し、その実験結果が明るみにだされることになったのです。

ヨーロッパでも推進と反対がせめぎ合いをしています。欧州委員会は推進の企業の息がかかっている。欧州理事会は、市民から選ばれた人たちが大臣をしていますから、反対しています。ヨーロッパでは消費者の強い懸念があって、遺伝子組み換えの新たな認可はしないと8年間凍結されてきました。モラトリアムです。

ところが、アメリカが「これは貿易障壁だ」とWTOのパネルに提訴しました。その結果「EUの凍結は貿易障壁である」とされ、認可手続きの凍結は解除になりました。欧州連合では、遺伝子組み換えの新たな認可作業がスタート、まず組み換えトウモロコシなどを認めていく流れになりました。

ところが、オーストリア、フランス、ドイツ、ルクセンブルグとギリシャの5つの国は、「国民が食べたくないと言っている。わが国は独自に凍結を続ける」という姿勢を表明したのです。これはEUの共通政策違反であり撤回させなくてはいけないと欧州委員会で議論がされていました。ちょうどその時このモンサントの秘密実験のことが暴露され、5カ国の主張は止むを得ないだろう、5カ国のモラトリアムの継続は認めようという話になりかかっていました。ところがこのあいだ欧州委員会の中間報告が出て、これを認めないという結論になるだろうという状況だそうです。せめぎ合いをしているわけですね。

EUの認可条件にトレーサビリティ、日本は?

欧州連合としては認可作業を開始したのですが、同時に0.9%以上組み換えが入っているものには表示の義務付けがあります。レストランメニューにも、種子にも表示です。さらにどこから来たかという経歴、もとの農場までたどり着けるよう送り状をちゃんと付けるトレーサビリティを義務付けました。したたかですね、ヨーロッパは。WTOの裁定では負けても、表示やトレーサビリティを遵守しなければならないならそう簡単には入ってこない。だからアメリカはカンカンに怒っています。これじゃ輸出できないじゃないかと。

日本では、油や醤油、粉末のもの、飼料など、多くのものが表示対象外です。「未承認でも、アメリカで禁止になったものでも、1%くらいはOK。日本はアメリカ産に頼らなければ家畜のえさは買えなくなっちゃうから」という具合で、何もかも受け入れています。

「製品で検査して、検知が困難なものは表示対象から外す」という表示ルールはおかしいですね。大豆やトウモロコシなど原料で入ってくる段階で検査すればわかることですし、分別しないで持ってきているものには米国のGM生産面積から混入は確実なのですから、組み換え表示に決まっているわけでしょう?原料がそうなら最終製品にそう表示すればいいわけです。それなのに、恣意的な理屈をつけて表示をしないで今日まできているのです。

最近では、「遺伝子組み換え不使用」表示のものをターゲットにして、GMが入っていると業者をたたいている。「5%までの混入はあっても不使用と書いていい」という馬鹿なルールを作ったのは農水省です。その元凶をたたかず、不使用表示の製品を槍玉にしている。不使用表示の食品をたたいて誰を利するかということを消費者は見定めなければだめです。

大きい環境、生物への影響

それから、遺伝子組み換えの作物では、環境・生物への影響が非常に出ていて、たとえば、組み換えの殺虫トウモロコシにつくアブラムシを、クサカゲロウの幼虫やテントウムシが食べたら死んだという報告もあります。影響はターゲット害虫だけではないのです。

根の働きは土から水や養分を吸うだけかと思ったら、GMトウモロコシが自分に不必要な殺虫蛋白を根から土壌に排出していて、土壌微生物やミミズも死に絶えていたという報告もあります。環境への影響、農業の将来への影響は計り知れません。

組換えイネの野外栽培実験の問題

いま私が問題にしているのは、日本での組み換えの米の野外栽培実験です。

実験を行っているのが、農水省傘下の独立行政法人の農業生物資源研究所(つくば)と北陸研究センター、そして東北大。この三か所が遺伝子組み換えのコメの野外栽培実験に去年から踏み切っています。野外栽培実験のガイドラインでは、地元の同意が必要なのですが、地元はどこも反対の声をあげているのに強行されました。特に新潟は米どころで、研究センターのフェンスのまわりはみんな一般の田んぼです。組み換えのコメの遺伝子で交雑が起きたら、米は売れなくなり風評被害に農家が苦しめられることになります。誰も食べたがらない組み換えイネを、交雑の危険性を冒してまでも実験を強行しています。

北陸研究センターの複合耐病性イネについて、私たちは裁判を起こし、いま戦っています。裁判のなかであきらかになったのは、イネが常時作るようになった抗菌蛋白ディフェンシンによって耐性菌が出現する危険性です。人もディフェンシンを作り、細菌から身を守っています。これは抗生物質耐性菌どころではない、深刻な脅威となる危険性をはらんでいます。エルマコヴァさんを含む海外の何人もの科学者からこの実験を憂慮し、危険性を指摘するメールが届いています。

組み換えイネ開発の本当の理由

日本の企業、三菱化学、三井化学、JT、全農などはどこも組み換えイネの開発から撤退しました。膨大な開発費をかけても、売れっこないからです。「遺伝子組み換え(GM)米」と表示があったら、「是非、それをください」という消費者はいませんよね。だから業者は撤退したのになぜ、日本の農水省はやるのか。

日本の農業は衰退の一途をたどっています。農水省の新しい政策では、コメ農家の規模拡大をしてコストを下げ、輸入のコメに対抗できるように足腰の強い大規模農家を作ってその担い手だけに支援をしていくとしています。

でも、これで勝てるとは思えません。アメリカの1農家あたりの農地面積は日本の農家の150倍。タイの生産コストは日本の10分の1です。山ばかりで農地が偏在していて、ガソリンも人件費も土地も機械も高い。そういう日本で、どんなに規模拡大しても、農地規模150倍のアメリカと10分の1の人件費のタイや中国に勝てっこないのです。しかも、アメリカは補助金をたくさん付けている。こんなアンフェアな世界で、日本の米が生き残れないことを農水省は一番承知しているはずです。

コメの関税をめぐるWTOでの攻防

いま日本ではコメだけが100%近い(95%)自給率を誇っている作物です。他の穀物は、ダイズが4%、コムギが11%、トウモロコシが0、ナタネが0.1%、地を這うような低い自給率です。唯一自給できる作物のコメが実は、風前の灯なのです。いまは490%という高関税をかけて輸入を阻止していますが、この関税を下げろとWTOの農業交渉で要求されているからです。限られた作物、こんにゃく、コメ等に高い関税を設定して、国内の農業を守っていますが、高関税は自由貿易を阻害するから、関税には上限を設定しようという提案が出されています。

7月末までにこれが決着するかどうか、WTOの行方はわからなくなっていますが、もし、上限設定が200%になっただけで、国内平均価格より安くなります。

さらにブッシュ大統領が、「いやいや、コメだって普通の野菜じゃないか」と言い出しました。アメリカ人にとってはコメも普通の野菜。でも、私たちにとっては主食です。それで一般農産物と同じに「75%にしろ」と。75%にすると、1kg80円、10kg800円になります。皆さんは、いくらでおコメを買っていますか? いくらなんでも普通の野菜と同じにしろという論理が通用するとは思えませんが。農水省は、いまのところは抵抗しています。

コメの未来と遺伝子組換えイネ開発の関係

コメを保護が必要な特別作物として、高関税を維持したいというのであれば、その見返りにミニマムアクセスを拡大することが求められるでしょう。ミニマムアクセスというのは、最低輸入義務量のことで、どんなに豊作でたくさん米が余り、価格がすごく下がって農民が困っていようとも、定められた一定量以上は必ず輸入する義務があるというものです。日本がコメの自由化を拒否したときに、このミニマムアクセスを飲まされました(その後1999年に米は自由化しました)。いまや、ミニマムアクセス米は消費量の10%以上にもなっていますが、これをもっと大幅に拡大させられるということです。

つまり、WTO体制がある限りは、関税をゼロにするまで交渉は続き、輸入が増え続けるという情勢にあるわけです。農水省は私よりもよくその事情を知っています。日本の農業はこのままいけば未来がないと彼らは考えているでしょう。そこで米の遺伝子解析では世界のトップをいく日本として、バイオ産業と手を組み、世界の30億の人々が食べているコメで組み換え品種を開発し、特許で押さえ、種子を世界中に売っていく。そして、輸入米が入って日本の農業が潰れたときには、日本の商社もコメビジネスというビッグビジネスを手に入れられる。欧米のバイオ企業と彼らが熱望しているイネの機能遺伝子の特許を交換することでバイオ産業の隊列に日本も加わることができる、こういう戦略ではないかと、私は思っています。

だから農水省は、企業も撤退した組み換えのコメの野外実験を強行するのではないでしょうか。つまり、WTOのいまの流れと、日本の農業の未来を見れば、それしかないと考えていると思うのです。

コメの特許とクロスライセンス

特許についてですが、遺伝子組み換えの技術、基本的特許は全部欧米の企業が握っています。遺伝子を切り取る技術、それを打ち込む技術は全部特許で抑えられています。だから日本の大学や研究所がいろいろな遺伝子組み換えをやっていますが、日本で応用化されたものは一つもありません。なぜ実用化できないか。意味のあるものがないこともありますが、なにより技術の基本特許料を払ったら、その製品はものすごく高いものになって商品化できないということがあります。応用化するには、自分の特許と基本技術の特許とを交換する、クロスライセンスが求められます。それができて始めて商品化できるのです。日本はコメなら相手が欲しがる特許を押さえることができるし、クロスライセンスで商品化の道がある。だからコメをやっているのです。

グローバリゼーションから食の未来を守る

しかし、皆さん。これが私たちの望む食の未来なのでしょうか。安全性もろくに調べられていない、遺伝子操作が広がっていけば、私たちが食べる普通の食べものも私たちの望まないものになっていきます。そして、ごく少数の多国籍企業が種を握り、今まで農家が種取りをしてきたことも、犯罪とされてしまいます。農家は、種会社が売りたい種でそれを作るだけの農奴に変わってしまう。「自分の意志で主体的に作り、種取りをし、より良いものを作っていきたい」、そういうことが出来なくなるのです。

WTOが掲げる世界のグローバリゼーションというのは、実は、一握りの多国籍企業が自分の利益を最大にするために各国の安全規制、環境保全、民主主義、そうしたものを全部なぎ倒して行く力技なのだということが、遺伝子組み換えの問題からわかります。特に日本が直面しているのは、「コメが危ない」ということです。

新潟の組み換えイネ裁判

新潟の北陸研究センターの組み換えイネについてですが、私共は去年、新潟の地裁に実験差し止めの仮処分裁判を提訴しました。それが却下されたので、本裁判を提訴し、いま民事裁判として戦っているところです。被告側は、「この組み換えイネは抗菌物質ディフェンシンを作り、イモチ病や白葉枯れ病に強い。農薬の使用が減り、農民も消費者も喜ぶコメだ」と説明しています。しかし、裁判のなかで研究者たちから指摘されて明らかになったのはこのイネは人工的に常時ディフェンシンを作るので、自然界では生まれにくかった耐性菌が生まれるということです。イネの根には、緑膿菌もいます。先日抗生物質耐性緑膿菌で何人も亡くなったと報道されたばかりですが、こういったことが新潟から起こるかもしれないということです。その指摘を受けた被告側は、ディフェンシンが外に出れば耐性菌の出現を否定できないので「ディフェンシンは外に出ない」と主張し、出ていないことを証明する実験結果を提出しました。ところが、それがイネが植えてある水田の水を使わず、水田に引いている外の川の水を使ったりといろいろ出ないように苦心しての実験で信頼性のないものでした。

私たちは、この実験は信頼性がもてないので第三者機関で共同実験をすべきだという提案をし、昨日の公判で裁判長がこれを受けて、第三者機関での実験を検討するよう申し渡すという面白い展開になっています。

裁判には弁護士さんが9名加わっています。みなさん手弁当で引き受けてくださっておりますが、何度も新潟まで往復したりして実費だけでもかなりお金がかかります。ここに裁判支援お願いのチラシをもってきてあります。どうかぜひ支援してください。

消費者の選択

この裁判で、もし「組み換えイネの野外実験には問題がある」という判決が出れば、他の実験も止まります。遺伝子組み換えのコメの応用化に歯止めをかけることが、喫緊の課題だと思います。国産の米を食べ続けるためには遺伝子組み換えの米の生産をなにがあっても認めてはならないのです。新潟だけの問題ではない、全国民の未来にかかわる重大な裁判だと私は思っています。

たとえどんなに安く入ってきても、輸入のコメは食べない。国産のコメを食べ続けることで、国内の環境を守り、日本の農家、農地、技術、種子を守ることができます。そういう消費者の選択が必ず未来を変えます。私たちの子供も、未来の子供たちのためにもこの国で安心して暮らしていけるように環境と食料の安全を守るのです。

食糧安全保障と向かうべき道、家族農家による健康と環境を守る有機農業

食糧安全保障。これこそが一番大切なことです。テポドンなんて目じゃない。「コメの問題は日本の国家の危機」という意識で、皆さんにコメの問題に取り組んでいただきたいと思います。

これは『Days Japan』7月号ですが、チェルノブイリにずっと取り組んでこられたフォトジャーナリストの広河隆一さんが編集長で、今回「今、コメが危ない」という特集を組んでくださいました。文章は私が書きましたが、上越の北陸研究センターの遺伝子組み換えイネをめぐって写真で紹介しています。今日お話ししたことが簡潔にまとめてありますので、ぜひ、読んでみてください。

それから、アメリカの『The future of food』という、ドキュメンタリー・フィルム。デボラ・ガルシアという女性監督が製作したのですが、これはいままで作られた遺伝子組み換え関係のフィルムのなかでは、出色のできです。アメリカで作られたGM食品の安全評価の問題、産官の回転ドア人事、補助金やWTOの問題、ターミネーター、農薬や化学肥料漬けの農業など、GMを切り口に食べ物をめぐっていま起きている問題をわかりやすく紹介してあります。そして私たちが向かうべきは、家族農家による健康と環境を守る有機農業の方向をきっちりと指し示しています。今「グループ現代」という『六ヶ所ラプソディー』などのドキュメンタリーで知られる映画会社の協力を得て日本語版を作っています。翻訳が終わり、まもなく吹き替え作業に入ります。製作費用のために賛同金を募集しています。DVD1枚5000円です。学習会用テキストも作成中です。9月から全国上映会を計画しています。

カリフォルニア州では上映運動が広がり、メンドシーノ郡では遺伝子組み換えを禁止するということになりました。住民の意識が変われば、あのアメリカでさえ、自治体で禁止条例が出来るのです。最近、同じカリフォルニアの別の郡でも禁止となりました。そういうインパクトのある映画です。ぜひ皆さんも賛同していただき上映会をしてください。学習会用に役立つテキストも作っていますのでよろしくお願いいたします。ちょっと宣伝させていただきました。どうもありがとうございました。

(2007/1/17)

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