<汚染米>―9・24農水省追及緊急集会等 報告
はじめに
9月24日開催した汚染米農水省追及緊急集会の呼びかけ団体は全国43団体に上った。当日の市民出席者は約100名。衆参国会議員の出席もあり衆議院議員会館の会議室はいっぱいとなった。
農水省の出席者
- 総合食料局消費・流通課
- 岡部康弘 調査官/ 竹重勝美 補佐
- 食料貿易課
- 久保田一郎 補佐
- 総務課
- 森明夫 補佐
回答文書を用意してこなかった農水省
農水省は事前に通知した質問要請17項目への回答文書は持参せず、資料データを含め口頭で回答した。国民にまじめに説明する気があるのかと冒頭から私たちに強い不信感を抱かせた。
なお、10月1日の東京新聞によると、汚染米発覚後の9月12日、自民党が農水省に対し、野党からの資料請求に対し自民党の検閲を指示していたことが内部文書で露見した。国政調査権の妨害は憲法違反であり、自民党、末期のあがきか。私たちの集会に対しての扱いはこれによるものか、それとも農水省のサボタージュか。いずれにしても再度資料について文書の提出を求めた。これに関連して10月7日には近藤正道議員同席のもと、辻、牧下、安田で農水省のヒアリングを行った。現時点までに提出された資料、および農水省とのやりとりで明らかになったポイントと当方の見解を以下にまとめます。
1.汚染米の元凶はミニマム・アクセス(MA)米の輸入にあり
政府は国内の水田の半分近くを減反させながら、MA米を最低輸入義務であるかのように説明をして輸入し続け、現在年間消費量の10%近く77万トンも輸入している。これらは外国から長距離運んでくる間に、カビが生えたり、日本では認めていない農薬の残留、はたまた未認可の遺伝子組み換えの混入など、国産米では起こりえない、さまざまなリスクをはらんでいる。要りもしないのにリスクのある米を大量に輸入し続けるMA米農政が汚染米を国民に食べさせた元凶だ。
・MA米の半分は米国から MA米の輸入は1998年から2007年の各年において輸入総量の約50%を米国からの輸入が占めている(農水省資料より)
■MA米の輸入状況 (単位数量 万実トン)
1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | |
アメリカ | 25 | 31 | 34 | 30 | 32 |
オーストラリア | 8 | 10 | 10 | 10 | 9 |
中国 | 7 | 7 | 6 | 8 | 10 |
タイ | 9 | 15 | 13 | 14 | 13 |
その他 | 1 | 3 | 2 | 2 | 1 |
合計 | 50 | 66 | 66 | 65 | 65 |
2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | |
アメリカ | 32 | 32 | 37 | 27 | 32 |
オーストラリア | 9 | 7 | 2 | 2 | 4 |
中国 | 12 | 8 | 10 | 7 | 7 |
タイ | 14 | 14 | 21 | 14 | 13 |
その他 | 4 | 5 | 10 | 10 | 8 |
合計 | 71 | 66 | 80 | 61 | 64 |
農水省の説明によれば、この数字は主食用ミニマム・アクセス米(特別売買=SBS米)10万トンを含んでいない。また玄米輸入分の精米後の量であるため総MA米としては2000年以降、約77万トンの輸入を行っているとのこと。なおMA米は玄米、精米、破砕米が輸入されている。
・汚染米検出件数も、輸入割合に比例して米国産が半分を占める。平成15年5月から平成20年8月22日までの汚染米発生109件中、米国52件、タイ23件、中国14件、オーストラリア12件、ベトナム8件であった。
2.汚染原因の大半はカビ
農水省資料によれば平成15年から20年8月22日までの間の汚染米発生109件中、カビ汚染が84件と大半がカビ汚染であった。続いてが「水濡れ」で、メタミドホスなど残留農薬基準違反が6件でこれはすべて中国産から。あとわずかだが虫害、鼠害、異物混入、汚損がある。残留農薬基準違反は、これまで日本が基準設定していない農薬が検出されても違反ではなかったのが平成18年のポジティブリスト制移行に伴い、0.1ppm以下と基準が設定されたことから、これまで通関できていたものが違反品とされたことによると説明。とすると平成18年以前はこのような農薬残留のMA米が輸入され、食用として流通していたわけだ。
近年日本が輸入する穀類のカビ汚染(アフラトキシンに限らず、オクラトキシンAやゼアラレノンなど)はかなり深刻で全国的に輸入飼料を食べた家畜の死亡や流産等のカビ毒の中毒被害が多発している。カビ毒は畜産物に残留し、それを食する人間にも健康被害を及ぼす。にもかかわらず、カビ毒については野放しできた。というより、輸入穀物のカビ問題から国民の目をそらす気配すら感じさせられた。飼料の輸入に差し障りが出て、貿易相手国の米国との摩擦が目に見えているからではないか。輸入穀物、飼料のカビ毒検査が行われなければならない。
3.アフラトキシンB1汚染
アフラトキシンはアスペルギルス・フラバスというカビが産生するカビ毒で、史上最強の発ガン物質、どんなに微量でも発ガン性がある。東京都健康安全研究センター(「くらしの健康8号」)によればアフラトキシンが作られる最適条件は、温度30℃前後、湿度95%以上。日本では発生が報告されたことのないカビ毒であり、日本に到着した後にアフラトキシンが発生するということはまず考えられない。 今回のアフラトキシン汚染米の輸出国は米国、ベトナム、中国であった。輸入食品のアフラトキシン汚染実態調査では米国産輸入トウモロコシなどが顕著に高い。今年の1月から8月までの厚労省の行った輸入食品調査でアフラトキシンの違反は90件。残留農薬の違反に比べると飛びぬけた違反数で、トウモロコシは、アメリカ産から32件検出されている。
アフラトキシン汚染米の場合、輸出前の農水省の検査では汚染が見つからずアフラトキシンは倉庫保管中に発生したかのように(9.5トンも!)農水省は主張した。しかし、輸入の荷役時に農水省の品位検査(カビ・水濡れ)があり、ここではアフラトキシン検査はなぜか行われていない。到着時点で検査せず、受け入れた後の国内倉庫保管という段階で、厚労省の食品衛生法に基づく検査でアフラトキシン汚染が発覚している。輸出国との摩擦を避けるために国内での発生という扱いにしようとした意図を感じる。
百歩譲って、倉庫保管中に発生したのなら、物品管理法で農政事務所など物品管理者に保管中の適正管理の責務が課せられているのだから、その責任が厳しく問われねばならないはず。 MA米の半分を占める米国への配慮が、このぬるい検査の背景ではないか。 MA米を含め輸入穀物で最も懸念されるアフラトキシン検査を水際できちんと行い、決して流通させない体制を求める。
4.MA汚染米の食用外用途が業者犯罪を生んだ
農水省は、「アフラトキシンまでは追究してなかった、普通のカビ汚染なら通る、飼料用とか使えるので」と答弁。
食品は、食品衛生法違反があれば輸入許可されず、積み戻しか廃棄となる。ところが、MA米の場合、食品衛生法違反でも食用外用途(工業用、肥料用、飼料用)の選択肢があり、当然ながら輸入業者はほとんどがこれを選択した。食衛法違反がわかった米について、代金の返還をなぜ輸出元に求めないのか?という問いに、食用不適でもそれ以外での用途で受け入れることができるからと述べた。 食用外転用を認めなければ汚染米流通はおきなかった。MA米の数量確保のため、食用外転用という道を作ったと思われる。
なお、MA米は、政府から商社が入札で受託して、買い付け契約をする。汚染があっても、これまでは非食用途が許されていたため商社はリスクを負わずに買い付けてきた。農水省は今後、食品衛生法違反の汚染があれば、廃棄する方針。 廃棄の場合の費用負担は誰がするのかと問われ、今後は商社の自己負担という条件で契約を結んでもらうと述べた。この当然のことを行ってこなかったのだ。なお、商社は輸入するにあたっては、保険をかけている。
5.MA米と天下り
輸入米には厳重な検査が求められるところだが、実態はいくつもの検査をすり抜けて汚染米が国民の口に入った。MA米をめぐる検査、保管、流通は農水省の出先や天下り先(全国食糧保管協会、日本穀物検定協会や倉庫会社などー東京新聞10月1日記事)との関係が深い。食糧庁が廃止になり、保管業務や検査業務などの関連機関・企業に天下っている。MA米が農水省の天下り先と仕事を作ってきたといえる。
また、もと食糧事務所が農政事務所になった。キロ5円から10円ほどの低価格で売却される非食用汚染米を食用に転売すれば大きな利ざやを得られる。農政事務所は業者の不正転売の可能性を知りながら、売れにくい汚染米を買ってくれる三笠フーズなどを重用し、また接待を受けるなど癒着して、まともな検査を行ってこなかった。売却先が適正処理しているかの調査は、マニュアルもなく、伝票照合すらしなかったずさんなものであった。事前通知して100回近く三笠フーズに調査に出向いたあげく、不正転売を見逃してきた。まず官の不作為(なすべき責務を果たさない)があり、加えて業者との癒着構造が横流し不正を許す温床であった。(ここでは悪徳業者のことははぶく)
これまで同じ農政事務所が売買と検査を行っていたが、検査は独立した機関が行うべきとの要請に、農水省は、今後は、検査は専門的知識を持っている検査部門の職員が行うようにすると述べた。これまでは専門的知識を持たない人たちが検査のまねごとをしてきたということか? 検査は農水省から独立した第三者機関が行うべきであり、立ち入り検査はすべて抜き打ち検査とすること(でなければ意味がない)。
商社が現地で買い付けた米は、荷積み時に農水省の出先機関の検査がある。この検査はサンプルを日本に送って検査しているという。ベトナム産輸出米を検証したテレビ朝日報道ステーション(10月9日)によれば、日本向けの米についてのみ「OMIC(海外貨物検査株式会社)」という企業が検査を引き受けている。しかし、実際の検査はOMICではなく「財団法人日本穀物検定協会」が行っていた。両社とも天下り組織で、同じビルにあり、MA米の検査業務がOMICに仕事を作ってきたといえる。そして残留農薬違反はこの検査では検出できず、輸入後に検出されたのだ。サンプルと実際輸出された荷が同一であったかどうかすら、きちんと検証されていないのではないか。「業者に対しては性善説だったが、今後性悪説に立って対処する」と農水省官僚はヒアリングで述べた。思わず顔をまじまじ見つめてしまうアホな発言だ。官業癒着、馴れ合いの利権構造は根深い。農政事務所が業者に売り渡すとき、随意契約で行われていた。不透明な関係を生む随意契約は廃止すべきだ。
MA米の汚染米は今後廃棄になるとしても、カドミウム汚染米が食用に転用されることはないのか、その処理は万全なのかを問うた。資料請求中なのは汚染米(MA汚染米、国内汚染米、カドミ汚染米)の工業利用として売却されたとされる工業用のり増量剤の実際の生産量とのつき合わせだ。また、飼料に回ったとされるMA汚染米量と飼料会社の生産量との突合せはいまだに手付かずの未調査で、これについても資料請求中である。
しかし、農水省は世論の注目が薄らぐのを待っていたかのように、汚染米関係業者を徹底追及するはずが、新潟の島田化学工業の転売業者の調査を切り上げ、刑事告発を見送るという形で幕引きを図っている。汚染米の飼料流通の調査は未だ手付かず。関係企業と流通経路の徹底解明なしに再発防止はできない。無責任官僚の跋扈を許す「曖昧な国ニッポン」でいいはずはない。 天下りの廃止こそ、官業癒着の元凶を絶つ術(すべ)だ。MA米をめぐる利権を精査し、官業癒着を断って税金の無駄をなくすこと、そして、水際検査が機能していない、あまりにも少ない検疫検査官の増員にこそ税金を使うことを求める。
6.MA(ミニマム・アクセス)米輸入は止めよ
WTO(世界貿易機関)の農業協定に基づき、過去(1986年〜1988年)において輸入実績が国内消費の3%以下の品目(日本の場合米)に関しては、低関税での輸入が、決められた数量まで一次関税(低い関税)で輸入を、その枠を超えたら二次関税(高い関税)の適用を行うという制度。関税化に切り換えた1999年から毎年のアクセス数量の増加率が半減(0.8→0.4%)し、2000年からは7.2%(76.7玄米万トン)となっている。
これまで政府与党、農水省はMA米を「最低輸入義務」であるかのように国民に説明してきたが輸入量が義務づけられている訳ではない。MA(ミニマム・アクセス)とは「最低輸入機会の提供」であり、一定の低率関税枠を設定して輸入機会を与えるというもの。なにがなんでも77万トンいれなきゃいけないということではない。現在米の国際市場が高騰し、目標量の買い入れが困難となったとたんに「輸入機会」であるからいいのだと説明するご都合主義の政府・農水省。 要りもしないのに輸入量を増やし続け、挙句に汚染米を国民に食べさせ、国内の稲作衰退に拍車をかけてきた。穀物高騰に転換した現実を前にする今こそ、日本政府は矛盾に満ちたMA米の廃止を決断すべきなのだ。
MA米廃止要求に対し、農水省はMA米を拒否すれば、低関税で米が入ってくる、国内稲作を守るために必要だと述べた。WTO協定の見直しは、はなから頭にない。MA米の廃止とはすなわちWTOルールの見直しであり、農業を自由貿易ルールの対象から外すことなのだ。穀物高騰、気象変動、為替変動、原油高、紛争など輸入が安定的に保障される時代ではなくなった。各国が基本穀物は可能な限り自給することが求められるのだ。
農水省は現在一時的に輸入停止しているMA米を早急に再開したい意向。そのため年内では遅いと調査も早々に切り上げ、急ピッチで汚染米対策をまとめてけりをつけようとしている。(いのちの講座54号より)
★「汚染米から米流通を考えるシンポジウム」開催します
日時:10月29日(水)14時から17時まで場所:参議院議員会館 第一会議室
詳細は
https://www.yasudasetsuko.com/diary/2008_10.html#08
★各政党に汚染米についてアンケートを送付。10月17日を締め切りとして集約結果は上記シンポで発表予定
<汚染米アンケート>
- 1. 今回の汚染米問題の原因は何だと思いますか。
- ア、不正な取引をした流通業者の責任にある
- イ、農水省が食用不適のMA米を非食用として流通させ、かつきちんと監視しなかったこと
- ウ、その他
- コメントがあればご記入ください
- 2.MA米について
- ア 廃止すべき
- イ 継続が必要
- ウ その他
- コメントがあればご記入ください
- 3.米の生産調整について
- ア 強制的な米の生産調整と、生産調整を要件とした各種農業制度は廃止するべき。
- イ 現在の制度の継続が必要。
- ウ その他
- コメントがあればご記入ください
- 4.WTOの農業協定の見直しについて
- ア 各国の食糧主権を尊重し、農業分野の保護を認める。そのためにも輸出国の輸出補助金は禁止とする。
- イ 国際分業がもっとも有利な方法であり、農業協定の見直しは必要ない
- ウ その他
- コメントがあればご記入ください
- 5.輸入米の検査について
- ア アフラトキシンB1をはじめとするカビ毒汚染、輸出国の農薬や放射線照射、遺伝子組み換え米開発などの汚染防止のために情報収集と検査の強化を図る。そのために検疫検査の大幅増員、機器配備を行う。
- イ 輸入検疫は簡略化、迅速化が求められており、従来どおりリスク情報のあったものについてのみ検査を行う。
- ウ その他
- コメントがあればご記入ください
- 6.天下りについて
MA米をめぐっては農水省の天下り先(全国食糧保管協会、日本穀物検定協会や倉庫会社など)との関係が深い。MA米が天下り先を作っているとの指摘があるが、どうお考えか。 - ア 天下りを禁止する
- イ 天下りの禁止はむずかしい
- ウ その他
- コメントがあればご記入ください
(2008/10/14)